大学サッカーという選択肢

大学サッカーという選択肢

2023年7月4日

こんにちは。

サッカーは「深く狭く」掘り下げたいアラサーライターの蹴道浪漫(シュウドウロマン)です。

今回は、日本サッカー界における大学の役割について、気ままに考察します。

U-17ワールドカップの戦績

2023年7月2日、タイで行われたU-17サッカーアジア大会決勝で、日本が韓国を3対0で下して優勝。ベスト4の時点でU-17ワールドカップへの出場が決定していたわけだが、優勝したため、日本としてはこの大会で史上初めての2連覇を達成したことになる。

元々、日本にとって、このU-17ワールドカップへの出場は極めた難易度が高いものだった。日本が始めて出場したのは、自国開催の1993年。当時高校生だった中田英寿や宮本恒靖が主力選手として出場し、ベスト8入り。2年後の1995年エクアドル大会にも、小野伸二や稲本潤一が出場したが、グループリーグ敗退。

その後はアジア予選での敗退や、本大会に出場してもグループリーグでの敗退が続いた。2011年メキシコ大会で南野拓実を中心にベスト8入りしてからは安定してベスト16以上の結果を残しているものの、それまではまったく勝ち抜けない状態が続いていたのだ。

U-17という鬼門

それでは、なぜ日本が勝ち抜くのが難しい大会だったのか。大きな要因として考えられていたのは、日本の教育制度だ。中学高校と、学校の部活でサッカーをしていたケースを考えてみると、まず中学3年の夏の時点で最後の大会が終了する。この後は、基本的には部活動がない状態になる。個人練習がメインになり、試合を通して力をつけることは難しくなる。

そして、高校に入学してからも部員数が多い学校の場合、1年生はなかなか練習ができない。グラウンドは2年3年の主力選手が使用して、1年生はひたすら走り込みや雑用を行う。3年生の引退は早くても8月なので、中学3年の夏から1年程度はまともにサッカーができない状態が続くのだ。

このような背景があり、高校1年生や2年生が中心になって戦うことになるU-17ワールドカップ出場権を獲得するアジア予選に対して、日本は今一つ実践の経験が乏しいメンバーで臨まざるを得なくなっていたのだ。

劇的に技術や体力がつく時期に、丸々1年間ほとんどサッカーの試合がないどころが、選手によっては練習の経験すらも積めないというのは、長年の日本サッカーの課題だった。

飛び級の定着

流れが変化したのは、2000年代に入ってからだ。Jリーグの下部組織のクラブチームが増えたり、私立の学校が中高一貫の6年間で選手に指導したりするようになった。そのため、中学3年の夏から高校1年の夏にかけても、しっかりと経験を積める選手が増えたのだ。

たとえば、今回のメンバーの場合、23名中19名がJリーグの下部組織に所属しており、残る4名は中高一貫の私立高校の選手だ。現在では、飛び級でのブレーも当たり前になっており、中学生が高校生の試合に出ているのは何ら珍しいことではない。日本の教育制度が原因となっていた、育成年代における日本サッカーの課題は解消されたと言って良いだろう。

大学という選択肢

そして、最近になって、日本サッカー界には新たなトレンドが生まれつつある。それは、大学サッカーを経験してから、プロになるというものだ。ほかの国には見られない、日本サッカー界独自の特徴だと言える。

実際のところ、一昔前の日本代表には、大学出身の選手はほとんどいなかった。たとえば、2006年ワールドカップドイツ大会の日本代表で、大卒の選手は23名中3名。それが、前回の2022年ワールドカップカタール大会では、26名中9名が大卒の選手だった。

大卒の選手が増えた要因

大卒の選手が増えている要因は主に3点考えられる。まずは、同じようなケースで日本代表やJリーグで活躍している選手が増えたからというもの。たとえば、最たる存在は4大会連続でワールドカップに出場した長友佑都だろう。

また、中村憲剛のようにJリーグで長年活躍して、ワールドカップに出場したというケースもある。高校の時点でプロになれなくても、大学を卒業してから日本代表やヨーロッパサッカー界で活躍できる可能性があるということが、ハッキリと示されている。

2点目の要因としては、日本サッカー界全体のレベルが上がっていることが挙げられるだろう。つまり、以前であれば高卒でプロになれる力があったとしても、Jリーグのレベルが上がっているため、出場機会を考えて大学を選択するというものだ。今や日本代表の顔となった三苫薫は、プロからの誘いを断って大学に進んでいる。

3つ目は将来を見据えての選択ということが考えられる。高卒でプロになる実力があったとしても、怪我や病気を理由にプレーできなくなるケースがある。或いは、問題なくサッカーができていてもプロでは通用せずに、2~3年で解雇となることもある。

高卒のリスク

たとえば、高校卒業までほとんどサッカーしかしてこなかった選手は、社会人経験や貯金がない状態で無職になる。もちろん、サッカー選手になるだけの体力や精神力があるため、あらゆるタイプの仕事に適応できるだろう。しかし、小学校低学年の頃から各年代でトップクラスの実績を残してきた選手が、数年で失格の烙印を押されてしまうのだ。メンタル面で相当大きな負担がかかると予想できる。

また、プライドが高い選手の場合は、ほかの仕事を始めても下積みの期間に相当な苦しさを覚えるはずだ。年収が何百万や何千万の世界にいた人が、いきなり時給千円ちょっとのアルバイトを始めるのは、難しいだろう。

これが、大学を選択した場合、違った状態になる。たとえば、大学の2~3年頃に怪我でプレーできなくなっても、就職で困ることはないだろう。有名大学のサッカー部であれば、なおさら就活で困ることはないはずだ。アルバイトやインターンシップで社会経験を積むこともできる。

仮に、大学を卒業してからプロになり2~3年で解雇になったとしても、大卒という学歴は残る。20代半ばで有名大学出身の元プロサッカー選手となれば、ほとんどの企業が興味を示すはずだ。

10代の時点で、どれだけサッカーの能力が高かったとしても、それだけで生涯にわたって生活できる人はまずいない。日本社会全体で学歴の重みが減ってきているとはいえ、大学に行くからこそ得られる社会経験や人脈があるのも確かだ。

大学経由という選択肢

U-17日本代表の進路を見ても、大学を選択する傾向が強まっているのがわかる。2007年U-17ワールドカップ韓国大会では、21名中3名がプロではなく大学に進学している。これに対して、2019年のU-17ワールドカップ日本代表メンバーで、現在プロではなく大学でプレーしているのは23名中5名。17歳以下の日本代表に選ばれる程の力がある選手であれば、まず間違いなくプロからのオファーが来ているはずだ。恐らく5名全員がプロからのオファーを断って大学に進んでいるのだろう。

もちろん、高校からプロになるのを避けて、大学に進学すべきだという話ではない。当たり前のことではあるが、それぞれにメリットがあり、デメリットもある。人によって状況が大きく異なるため、一概にどちらが良いとは言えない。

しかし、世界的に見ても珍しい大学を経由してプロサッカー選手になるルートがあることは、選手の可能性を広げるという観点から、日本サッカー界の大きな魅力の1つだと言えるだろう。