日本サッカーにおける部活の存在意義

日本サッカーにおける部活の存在意義

こんにちは。

サッカーは「深く狭く」掘り下げたいアラサーライターの蹴道浪漫(シュウドウロマン)です。

年末年始に行われた、高校サッカー選手権大会は、下馬評通り青森山田高校が優勝しました。

そこで今回は、日本サッカー界の特徴の1つである「部活」について、気ままに考察します。

「部活文化」という貴重性

日本のサッカーの特徴の1つとして、部活出身の選手がいることが挙げられる。たとえば、ヨーロッパの場合は、選手は各クラブチームに所属している。学校が終わったら、一度自宅に戻ってから、クラブチームの練習場に向かうのだ。日本のように授業が終わったら、そのまま校庭でサッカーをするというのは、世界的に見ると珍しいようである。部活文化というのは、日本以外だとアメリカ・韓国・中国ぐらいにしかないそうだ。

部活やクラブチームと言っても、各チームで事情が全然違うものの、ここからは大雑把に以下の通りに、2つに区分して考えていきたい。

部活→高校生の部活

クラブチーム→高校生年代のクラブチーム、Jリーグの下部組織以外のチームも含む

サッカー界での部活の影響力

日本サッカーの転換期として、1993年のJリーグ開幕が挙げられるが、これは部活文化にも大きく関わっている。というのも、Jリーグ加盟への条件の1つに、高校生以下のチームである下部組織を設けることが義務付けられていたからだ。現在でも、この条件に変わりはないため、日本中に膨大な数のサッカーのクラブチームが存在する。高校生年代だけでも、100チーム以上のクラブがあり、年齢層が下がるほどチーム数は増える。Jリーグ開幕前は、ほとんどの高校生が学校の部活としてサッカーをしていたのに対して、開幕後はクラブチームでサッカーをする子が増えたのだ。そういった傾向は、現在でも続いている。それでは、日本特有の文化とも言える部活は、今後サッカー界では廃れていくのだろうか?私の考えはノーである。

日本サッカーの現状

現在のサッカー日本代表選手の内訳を見ると、圧倒的にクラブチーム出身者が多い。日本が初めてワールドカップに出場した1998年は、全員が部活出身で、クラブチーム出身はいなかった。ここから20年後の前回のロシアワールドカップでは、メンバー23名中11名が部活出身であり、クラブチーム出身者の方が多いというメンバー構成になった。東京五輪のメンバーで見ると、部活出身は18名中2名のみである。クラブチーム出身者が増えているのに、間違いはない。チーム数で見ると、クラブチームが約100なのに対して、部活は4000チームほどある。しかし、代表チームの選手は、ほとんどがクラブチーム出身なのである。

これは、サッカーが上手い選手がクラブチームに行って、残りが部活でプレーをしているからだ。Jリーグの下部組織>下部組織以外のクラブチーム>部活、という構図になっている。年末年始に行われている、高校サッカー選手権大会は、高校生年代のトップを決める大会とは言えない。たとえば、日本代表で活躍している長友佑都も、クラブチームのセレクションに落ちて部活を選択している。

クラブチームが強い理由

クラブチームは、毎年セレクションを行っている、言ってみれば精鋭集団だ。選手側からすると経済的なメリットもあり、ほとんど費用がかからないチームもある。シャツやスパイクといった備品がチームから支給されるだけではなく、生活費が全額免除の状態で寮生活をしている高校生もいる。これは、トップチームが1つの投資として下部組織であるクラブチームを支援しているからだ。部活とは違い、高校生のすぐ隣のグラウンドではプロが練習しているため、トップ選手と自分との実力差が分かりやすい。下部組織で頭角を表せば、高校在学中の段階でもJリーグの試合に出場できる。環境面では、部活よりもクラブチームの方が、圧倒的にプロに近いのだ。ふるいに掛けられた選手が、プロのコーチから指導を受けているため、当然練習のレベルも高い。少人数でのチーム編成であるため、1年生の頃から試合にも出られる。プロに近い条件が整っているというのは、クラブチームが強い最大の理由だ。

クラブチームが芝なのに対して部活は土のグラウンドが多い

部活の存在意義

私が日本サッカー界から、部活がなくならないと考える最大の理由は、単純にチーム数が多いからだ。4000チームほどが参加する、年末年始の高校サッカー選手権大会は、8月頃から各都道府県で予選を行っている。恐らく、これほどのチーム数が参加するアマチュアの大会を毎年開催しているのは、日本ぐらいのはずだ。Jリーグの下部組織があるとはいえ、そこに所属できるのは、せいぜい2~3%程度である。残りの97~98%、言ってみれば非エリートは部活を選択するのだ。もし、日本から部活がなくなったとしたら、クラブチームだけでは選手の受け皿になれない。日本サッカーの土台を形成しているのが、部活だと言えるだろう。

部活のメリット

質の高い環境が整っているのがクラブチームの強みであるならば、部活ならではの魅力とは何なのだろうか?1つ挙げられるのは、サッカー以外のものと触れ合う機会が多いということだろうか。サッカーに繋がるかどうかは分からないが、クラブチームの選手より、ほかの競技の選手と知り合う機会が多いはずだ。クラブチームがプロ選手の輩出を目的としているのに対して、部活の場合は各大会で少しでも勝ち上がることを目指している。どちらにも一長一短があるが、部活の方が大きなプレッシャーのかかる状態で試合を経験しているのでないだろうか。たとえば、全校生徒や地域の方から応援されるというのは、クラブチームではないことである。

部活の課題

実質2年間しかプレーできないというのが、サッカー界における部活の最大の問題点である。高1で入学してから、3年生が引退するまでの半年ほどは、走り込みと球拾い。中3の夏に部活を引退してからの約1年間、まったく試合の経験をしていない選手もいる。強豪校であるほど、部員数も多いため、補欠の増加が一番の課題と言える。しかし、以前から部活制度の構造的な課題は指摘されており、最近では随分改善されているようだ。たとえば、補欠制度をなくすために、1つの学校から複数のチームが大会に参加できる制度がある。また、中学のクラブチームや部活が高校のサッカー部と連携を取ることによって、中学と高校6年間のスパンで指導をする学校が増えてきている。これは、何も私立の学校に限った話ではなく、公立の高校も地域の中学生のクラブチームと連絡を取っているのは、最早当たり前のこととなっている。従来通りの体制でやっていても、勝ち上がれなくなっているのだ。

今後の部活文化

今後、小学校や中学校のサッカー部は、減少していくだろう。子供の数が減っているだけではなく、指導できる人数も限られているからだ。バレーボールやバスケットボールと比べて、サッカーは試合をするために必要な人数が多い。1チーム分の人数をそろえられる学校は限られてくるはずだ。混合チームのようなケースも考えられるが、既に各地域の小学生年代のクラブチームが、その役割を果たしている。しかし、高校生や大学生の年代でのサッカー部は、それほど減少しないはずだ。この年代では、全国大会の注目度がクラブチームのそれよりも格段に高い。プロは目指していないけど、全国大会にはでたいという考えの高校生や大学生もいるだろう。日本独自とも言える、部活というサッカーの育成機関は、時代に合わせて形を変えながらも、今後も存在感を発揮するはずだ。