サッカーの「戦術」と「フォーメーション」の違い

サッカーの「戦術」と「フォーメーション」の違い

2021年10月21日

サッカーの世界で良く使われる言葉の1つに「フォーメーション」がある。選手の羅列を数字にしたものであり、「スリーバック」や「ワントップ」といったように、各ポジションの人数が上げられているものが多い。そして、「フォーメーション」とは「戦術」のことだと思われがちだが、これは間違いである。「フォーメーション」は「戦術」の1つの要素に過ぎない。

  • サッカーの独自性

サッカーの場合、各ポジションの人数は勝手に決められる。キーパーは1名ではあるものの、ほかのポジションを何名の体制にするかは、チーム事情によって変更できるのだ。これは、サッカーの特徴の1つである。たとえば、野球の場合は内野手を6名に増やして、外野手を1名にするということはない。ただ、サッカーであれば、いくつかの組み合わせの中から選択できる。

  • 「フォーメーション」の重要性

しかし、「フォーメーション」そのものが、試合結果に与える影響は、ほとんどない。なぜなら、自由な組み合わせが可能とはいえ、そんなにバリエーションは多くないからだ。細分化していくとキリがないが、大まかに分類すると「フォーメーション」は、恐らく10通りもないはずだ。つまり、「フォーメーション」は、それほど重要ではない。ただ、各チームの「戦術」は大事な要素ではある。

  • 「戦術」の重要性

サッカーおいて、「戦術」は勝敗に与える影響が大きい。特に、格上のチームと対戦する際には、細かく「戦術」を練っておかないと、勝つのは難しい。チームによって様々だが、だいたい小学校高学年くらいから基本的な「戦術」を取り入れて、高校生くらいにかけて洗練されていく。試合中は呼吸も上がり、体内に酸素が少ない状態が続くため、無意識でも動けるくらいに「戦術」を徹底させているチームもある。「フォーメーション」を変更すれば、良いサッカーができるということはない。しかし、「戦術」を練り直せば、試合に勝てる可能性は上がるだろう。

  • 「戦術」とは何か

サッカーの場合は、1人の選手がボールに触れている時間は、せいぜい2分程度である。残りの時間は歩いたり、走ったりしているため、ここで良いポジションを取ることが重要だ。ポジショニングの重要性は、ほかのスポーツよりも大きいと言えるだろう。「どの状況で、誰がどこにいるのか」を決めておくのが、基本的な「戦術」の考え方である。ボールの奪い方や相手陣地への攻め方といっても、結局は「誰がどこに走るのか」が、ベースとなる。

  • 「フォーメーション」とは何か

そして、「フォーメーション」を決めておくことで、「誰がどこにいるのか」をある程度把握できる。サッカーの試合をテレビで見ていると、気付かなくなりがちだが、実際にプレーしている選手からすると、周りの状況はほとんど分からない。自分の背後に相手選手はいるのか?味方の選手はどこに走っているのか?こういった部分は、周囲からの指示を聞きながらも、最終的には直感にしたがっていることも多い。「フォーメーション」は試合中に、周りの状況を予測するのに、役立つものだ。選手の配置を事前に決めておけば、自分との距離感を目で確認しなくても、だいたいは把握できる。言ってみれば、「フォーメーション」とは、1つの羅針盤のようなものだろう。

  • 「フォーメーション」は変わるのか

試合の流れにしたがって、選手のポジションは変わるため、当然「フォーメーション」も変化する。相手チームを混乱させるために、試合中に「フォーメーション」を微調整することもある。だからこそ、「フォーメーション」そのものは重要ではなく、基準点でしかない。「自由に動き回れるよう」に「ある程度のポジションを決めておこう」といったものなのだ。試合に与える影響度で言うと、選手個人の能力>「戦術」>監督の能力>運>「フォーメーション」、これぐらいの立ち位置でしかない。

  • 日本サッカー界で「フォーメーション」が流行った理由

最近は目にする機会が減ったが、2000年代に入ってから日本サッカー界では、「フォーメーション」に関する議論が盛んになっていた。当時の日本代表のトルシエ監督が、「フラット3」という言葉を提唱して、雑誌やテレビでも特集が組まれていた。当時、中学生だった私は「フォーメーション」と「戦術」を同じ意味として使っていた。日本で「フォーメーション」が流行した理由はいくつかあるだろうが、1つはゲームの影響が大きいと考えられる。実際の試合と違い、特に昔のサッカーゲームの場合は、「フォーメーション」によって強さに影響がでていた。サッカーゲーム愛好家たちの間で、「フォーメーション」が流行したと考えられる。或いは、「戦術」と違って「フォーメーション」は難しくないため、多くの人が、自分の考えを持ちやすかったとも言えるだろう。

  • 今後の「戦術」と「フォーメーション」

サッカー界において、革新的な「フォーメーション」というのは、でてこないだろう。先述したように、ただの基準点でしかないため、あまり多様性を作れない。そして、「戦術」も大きな変化は起きないはずだ。サッカーは11人で行うチームスポーツとはいえ、結局のところは個人の勝負になってくるからだ。サッカーにおける「戦術」とは、「個人の勝負に勝ちやすくするための作戦」と言えるだろう。今後、大幅にサッカーのルールが変わらない限り、「戦術」にも大きな変化はないと考えられる。