サッカーワールドカップのアジア予選について

サッカーワールドカップのアジア予選について

2021年10月22日

4年に1度行われるサッカーのワールドカップは、各大陸の予選を勝ち上がった国が出場できる。日本が参加するアジア予選は、ヨーロッパや南米と比べてサッカーのレベルは低いものの、過酷な大会と言われている。これまでの予選を振り返りながら、日本にとってベストな戦い方を考えていきたい。

「絶対に負けられない」と言われることもあるアジア予選は、日本からすると戦いにくい大会だ。今のアジア各国のレベルが上がっているとはいえ、すべての国の選手がベストコンディションで試合をしたら、日本が勝つ確率は圧倒的に高い。ヨーロッパで活躍している選手が多いからであり、アジア予選を勝ち抜いた経験のあるメンバーが揃っているため、問題なく予選突破を決めるだろう。

しかし、単純に実力だけが反映されないのがスポーツの世界であり、サッカーの魅力の1つと言える。今回のアジア予選で日本が苦戦を強いられる要因は3点あるため、1つずつ考察を進めたい。

  • 移動距離

対戦相手によっても変わるが、日本は島国であるため移動距離が長いことが多い。最近の日本代表の選手はヨーロッパでプレーしている選手が多く、ヨーロッパから日本、日本からアジア各国へと長時間の移動を強いられている。ヨーロッパに拠点を置いて、そこから対戦相手の国に移動することもあるが、それでも移動距離は長い。単に時間がかかるだけではなく、時差や気候への適応も必要になるのだ。

長距離の移動を繰り返すと、「朝起きた時に自分がどの国にいるのかが分からない」という状態になるそうだ。とても満足にプレーできる状況では無くなるため、選手もスタッフもコンディション調整に最大限の注意を払っているだろう。

  • 対戦国のモチベーションの高さ

日本がアジアでトップクラスの実績を残しているからこそ、各国は日本戦に照準を合わせてくる。1ヵ月前から事前合宿を行う国があるほど、日本は警戒されているのだ。対戦相手からすると、日本との試合は注目度が高いため、自分を売り込むチャンスでもある。アジアでもっとも知名度が高いサッカーリーグが日本のJリーグであるため、移籍を模索している選手も多いだろう。日本の試合をチェックするヨーロッパや南米のスカウトもいるため、アジア各国の選手からしたら、自国では味わえない絶好のチャンス到来なのだ。

  • 選手選考の難しさ

現状、アジアで最も選手層が厚い国は日本だ。日本の監督からすると、誰を選べばいいのかという贅沢な悩みが存在する。特に、日本のトップクラスの選手の場合、世界各国に散らばってプレーしているため連携を取るのが難しいはずだ。選手とオンラインでコミュニケーションを図れる時代になったとはいえ、相手の国が深夜の時間帯に連絡をする訳にはいかない。事前の試合で好調だったとしても、コンディションを崩す可能性もある。

10~20年程前の日本であれば、ヨーロッパでプレーしている選手が圧倒的に少なかったため、今よりも選手選考が楽だったのは間違いない。当時は、「海外組」「国内組」と言われていたが、「海外組」を試合に起用して結果が悪かったとしても、見ている側も諦めがついていた部分がある。

しかし、今は試合に呼ばれていない「海外組」もいる時代だ。どの選手を起用しようが、結果が伴わなければ、ほかの選手を起用すべきという議論になる。結果が出ていたとしても、内容が今ひとつであった場合、強烈なバッシングにさらされる。「海外組を起用した」というのが、言い訳として通用しない時代になったのだ。

勝ち抜くためには

アジア予選を突破するためには、上記の3点の不安要素を解消する必要がある。特効薬は存在しないものの、こまめに連携を取ることによって、移動や選手選考の難しさは改善されるはずだ。対戦相手のモチベーションは依然高いとはいえ、日本が横綱相撲に徹する必要はない。戦術のバリエーションを増やしておき、柔軟な戦い方をすると良いだろう。そのうえで勝ち抜くためのポイントを再び3点にまとめたい。

  • 選手を固定化しない

今の日本には、南野拓実や吉田麻也といった主力選手はいるものの、毎回招集して先発させるべきではない。負担がかかり過ぎるだけではなく、主力選手がケガやコンディション不良で離脱する可能性もあるからだ。例としては、2006年のドイツワールドカップが挙げられる。日本は本大会のグループリーグで惨敗したが、アジア予選から絶対的なエースだった中村俊輔は、最後まで調子が上がらなかった。後に、大会中に体調不良に陥っていたことが明らかになったが、同じような事態にならないように注意すべきだ。

  • 調子の良い選手を起用する

各選手の実績やワールドカップ本大会での年齢等は、すべて度外視して単純にコンディションが良い選手で戦って欲しい。というのも、今の日本であればそういった戦い方ができるほどの選手層の厚さがあるからだ。これまでの予選を振り返っても、いわゆるラッキーボーイと言われる選手の活躍が、チームを勢いづける傾向がある。ドイツ大会予選の大黒将司、ロシア大会予選の浅野拓磨のような存在が、今大会でも出てきて欲しい。古橋亨梧やオナイウ阿道といった、活きの良い選手の覚醒を期待したい。

  • シンプルな戦術を使う

日本の場合は、ほかの国よりも事前の準備に割ける時間が短い。そのため、実績のある選手が多いものの、細かい戦術を練り合わせる余裕はないと言えるだろう。監督やコーチは、大枠の戦術だけを固めておいて、残りは選手個人の判断に委ねるべきだ。細かく戦術を決めておくと、それにマッチしない選手が起用されなくなるだけではなく、本大会での苦戦に繋がる。たとえば、2014年のブラジル大会が思い出される。日本は前評判が高かったものの、惨敗を喫した。アジア予選から安定した戦いをしていたものの、本大会ではそれまでの細かくパスを繋ぐスタイルを発揮できずに、早々と敗退が決まった。

  • まとめ

日本サッカーにおいて、依然日本代表の人気は高いものがある。Jリーグのチームが各地域に根差した活動をしているとはいえ、プロ野球チームほどの人気はない。また、相撲のように連日試合が中継される訳でもないため、日本代表にかかる期待や責任は大きいものがある。つまり、日本代表がワールドカップに出場できないとなると、日本サッカー界全体に打撃があるのだ。キャプテンの吉田麻也の言葉を借りるならば「サッカーに携わるすべての人たちの死活問題」ということになる。

だからこそ、日本サッカー界全体で総力を挙げて、アジア予選を戦って欲しい。チーム全体としての実績はアジアでも突出しており、何よりも各選手の能力や経験は他国よりも高いものがある。調子の良い選手を集めて真っ向勝負に徹すれば、ワールドカップ本戦の課題を見つけながら、予選を勝ち抜けるだろう。