PK戦は格下が勝つ?

PK戦は格下が勝つ?

こんにちは。

サッカーは「深く狭く」掘り下げたいアラサーライターの蹴道浪漫(シュウドウロマン)です。

今回は、PK戦について考察します。

2022年ワールドカップカタール大会において、日本は下馬評を覆してドイツ・スペインの強豪に勝利。目標のベスト8入りには届かなかったとはいえ、ほとんどの人の予想を覆す結果を残したと言えるだろう。最終的には、クロアチア相手にPK戦で敗れてしまったが、延長戦を含めての試合内容では互角以上に渡り合っていた。PKは運の要素が強く、あまりサッカーの技術は関係しないとも言われているが、個人的には格下が勝ってしまう傾向があるように感じている。

試合の主導権を握っていたチームの心理状態

今回のワールドカップで、日本代表は守備に重心を置く試合運びをしていた一方で、主導権を握るサッカーも展開していた。ドイツ戦・スペイン戦はほとんど守りに徹する試合運びをしていたものの、コスタリカ戦は内容で圧倒していて、クロアチア戦も日本が仕掛ける側にいたように思う。仮に、複数名の審査員がいてPKではなく判定で試合結果を決めるというルールだった場合、クロアチアではなく日本が勝っていただろう。

しかし、PK戦というのは私自身のサッカー経験を振り返ってみても、チャンスを多く作ったチームの方が負けてしまうケースが多い。「延長戦で結果をつけられずにPKになってしまった」というネガティブな感情を抱いてしまうことが多いからだ。特に、攻撃的なポジションの選手は「自分が点を決められなかったからPKになってしまった」と考えてしまう傾向にある。

試合で押し込まれていたチームの心理状態

反対に、ピンチを多く迎えたチームの場合、「何とか延長戦を乗り切ってPKまでたどり着いた」「本来なら負けていたはずが運良くここまで来た」「負けてもともと。開き直って思い切ってPK蹴ろう」という気持ちになりやすい。特に、守備的なポジションの選手の精神状態は安定している場合が多い。試合を通してスーパーセーブを連発したゴールキーパーが、その勢いのままにPKでもシュートストップを連発することもある。

ワールドカップでもそうだったが、PK戦の前にはチーム全員で円陣を組むことが多い。この時、ピンチを防いだディフェンダーやゴールキーパーというのは、往々にしてテンションが高い。肉体的には極限状態にあるものの、精神的には最高潮にあるのだ。

日本対クロアチアの振り返り

今回のワールドカップで、日本は初めて決勝トーナメントで主導権を握るサッカーを展開した。ボールポゼッション率ではクロアチアが上回っていたものの、日本の方が内容的には良いサッカーをしていた。局面での勝負にも負けておらず、延長戦に入ってからは、「勝ちに行く日本、PK戦を視野に入れて守るクロアチア」という図式になっていた。

だからこそ、PK戦前の心理状態としては、クロアチアに分があったと考えられる。クロアチアとしては、何とか1失点で切り抜けたという感覚になっていたはずだ。前回のワールドカップで決勝トーナメントの初戦と2回戦でPKでの戦いを制していることもあり、「勝ちパターン」に入ったと感じた選手も多かっただろう。

その一方で、日本としては「攻撃的なポジションの選手を投入したが試合を決められなかった」という感覚になっていたのではないだろうか。当然、日本の選手を責めたいわけではなく、試合展開からしてPK戦の前にネガティブな気持ちになっていても、まったく不思議ではない。

PKは心理戦

PK戦への臨み方

PKは運ではないと言い、選手に「年間1000本のPK練習」を課していたルイス・エンリケ監督が率いるスペイン代表が、1本もPKを決められずにモロッコに勝てなかった。スペイン代表は、どのチーム相手でも基本的に主導権を握るサッカーを志向して、実際にチャンスを多く作り点も取る。このようなスタイルのチームの場合、PK戦前にはやはりネガティブな感情になってしまうのではないだろうか。恐らく、PK戦前のモロッコのディフェンダーやゴールキーパーは、ハイテンションだったはずだ。

私の経験上ではあるが、PKにおいて技術はさほど影響しないように感じる。キーパーに蹴るコースを読まれていた場合、よほど強烈なシュートを打たない限り、入らない。そもそもPKの成功率は約7割だとされている。5人蹴ったら、1人か2人は止められるのが普通であって、「入ったらラッキー」くらいの精神状態で挑むのが良いだろう。

ワールドカップでのPK戦

日本は、2010年南アフリカ大会と今回のカタール大会において、共に決勝トーナメント1回戦でPK戦によって敗退という結果になった。今後もグループリーグを突破してからPK戦に挑む機会があるだろう。それでは、どのような準備を進めておくべきなのだろうか。

まず、必要なのはあらかじめ相手のゴールキーパーの特徴を把握しておくことだろう。PKの場合、ゴールキーパーが飛ぶタイミングがわかれば、シュートが入る確率が格段に上昇する。ワールドカップに出場するレベルのゴールキーパーであれば、いくつかPKのデータがあるはずだ。

また、コンディションが良い選手をキッカーにするという視点も必要になるだろう。試合開始から延長戦終了までは、120分間もある。選手によっては高い緊張感の中15キロメートルほどは走っているため、踏み込んでボールを蹴ることができない状態の選手もいる。表情や様子は問題ないように見えても、走行距離が長かったり、試合中に相手選手との接触があったりした選手は、キッカーから外すべきだと言える。

クロアチア戦で、日本のPKのキッカーは希望制だったようだ。選手が自主的にキッカーを決める場合、PKに自信がある選手が蹴るというケースもあるものの、ほかに蹴りたがっている選手がいないから自分が蹴るというケースも考えられる。今回、日本の最初のキッカーを務めた南野拓実は後者だったようだ。

このように、責任感からキッカーに立候補した場合、プレッシャーを感じてしまうだろう。私自身の経験上、正直な気持ちとしてあまりPKは蹴りたくなかった。「決めて当たり前、外したら戦犯」になりかねないからだ。南野拓実も、本音としては蹴りたくなかったのではないかと想像してしまう。このチームの発足当初からメンバー入りしていて、森保監督に恩を感じていたため、キッカーに名乗り出たのではないだろうか。

今後、日本代表がワールドカップでPK戦となった場合は、監督がキッカーを指名した方が良い。なぜなら、選手よりも監督の方が、各選手の疲労度を客観的に見られるからだ。また、選手が責任やプレッシャーを感じないように、監督が声をかけることも重要なポイントとなる。各選手が肉体的にも精神的にも、できる限り楽な状態でボールを蹴ることが、PK戦での勝率を上げる方法だ。